マーケティング・ファースト
ここでは、事業を立ち上げる前にマーケティングをはじめることを提案します。リーンスタートアップやクラウドファンディングなどトレンドの手法を知りながら、いかにリスク少なくプレ・マーケティングを行うかを提案します。
マーケティングは、顧客から出発する。すなわち人間、現実、欲求、価値から出発する。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。 ピーター・ドラッカー 創造する経営者

クラウドファンディングの流行

2016年11月、戦時中の広島県呉の生活を描いた映画『この世界の片隅に』がひっそりと封切られました。
当初小劇場のみの配給でしたが、口コミが徐々に広まり、最終的には異例のロングラン・大ヒットとなり、興行収入も25億円を超えることになったのです。
この映画は、他の映画と違う画期的な点が1つありました。クラウドファンディング(不特定多数による、リターンを前提としない投資)を利用した資金調達によって、制作費の一部が負担されており、スタッフロールには出資者の名前が載りました。
片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援
Makuake(マクアケ)
クラウドファンディングは寄付ではありません。資金を集められる、という点では一見マーケティング手法ではないようには見えますが、純然たるマーケティングの手法です。
クラウドファンディング ユーザーから出資を受け、現金でない形でリターンを返すファンディング(出資)手法を指します。 制作前からお金を出す明確なファンがいることから一定の需要が見込め、彼らが口コミで広めてくれるので、実際に製品完成後もSNSなどの拡散が期待できます。 海外サービスではKickstarter、日本のサービスではReadyForMakuakeなどがあります。
クラウドファンディングで売るか、通常のように製品が完成したあとで売るか、というのは、単に売り方の違いでしかないのです。クラウドファンディングにはいくつかの利点があります。
    事前にある程度反応を見ることで、本当にやる価値のあるプロジェクトかを判断する
    密度の濃いファンとつながり、拡散してもらうことができる
このように、製品完成前や事業スタート前からマーケティングによってユーザーを集める手法は、非情に重要です。
マーケティングは商品が完成したあとにやり始める、というイメージでは、どうしてもプロダクト・アウト(製品中心)になってしまい、ユーザー中心のマーケット・インの世界観にはならないのです。

リーン・スタートアップの流行

CBInsightのデータによれば、およそ44%のスタートアップの失敗は「需要がなかった」ことによるもので、これは資金不足やチームのミスマッチなど、他の「ありそうな」理由と比べても、最も大きな理由となっています。
このような失敗を避けるために、考え出されたのがリーンスタートアップという概念です。
リーンスタートアップ コストを掛けずに、MVP(必要最小限の製品)を作り、可能な限り早く顧客からのフィードバックを得ることを目的としたスタートアップ立ち上げのメソッドです。 「複雑な計画を立てるのではなく、シンプルにはじめる」「軌道修正を常に繰り返す」などのモットーがあり、スタートアップ業界ではメジャーなメソッドとなっています。
リーンスタートアップの名著である Running Lean によると、成功したスタートアップの3分の2はピボット(事業の転換)を経験しています。
リーンスタートアップを最初に提唱したエリック・リースは、製品を作った後に実際にユーザーの声を聞いてみたところ、当初の戦略と全く違う結論が導き出されたことについて、こう語っています。
当初戦略を捨てて方向転換するとは、私がした仕事──数千行にもわたるコード──のほとんどを捨てることを意味する。 裏切られた思いがした。私はアジャイル開発と呼ばれる最新のソフトウェア開発手法を信奉していたが、この方法なら製品開発の無駄をなくせるはずだったのだ。 それなのに、これ以上はないというくらいの無駄をしてしまった──顧客が使いたがらない製品を作ってしまったのだ。これには本当に落ちこんだ。 リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
後にエリック・リースはこの学びを生かして成功しましたが、そんな彼でもこのような失敗をすることがあるのです。
世界で最も有名なベンチャーキャピタル(アクセラレータ)である Ycombinator は、「人々が欲しがるものを作る」ことをテーマに掲げていて、これは失敗の理由を減らすために最も効果的であると思われます。
Ycombinator 出身のスタートアップである Dropbox は、当初、製品を作る前に動画を作って、それを必要としている人がどの程度「事前予約」フォームにメールアドレスを記入してくれるのかを計測してから製品を作り始めました。
まず、需要があるかどうかを確認して、それから作る。これによって、誰もほしがらないものを作ってしまうという最大のリスクを避けることができます。
スタートアップ企業とは、今までに存在しないサービスの需要を見込むものであり、すでに確立したビジネスよりもはるかに難しいのです。
とりわけ、トヨタのカイゼン方式を起業家の世界に応用した「リーンスタートアップ」の手法は、マーケティング・ファーストそのものであると言えるでしょう。
私たちの住む世界はとても不確実で、計画どおりに物事が進むとは限りません。だからこそ、常に顧客とつながり、製品やサービスを改善し続ける必要があるのです。
エドセルの失敗 ユーザーの声を聞かずに失敗したもっとも有名な例は、アメリカの自動車メーカー、フォード社が発売した「エドセル」でしょう。当時のフォード社は、世界最高の市場調査能力を持っていました。様々な機能と斬新なデザインを備えたその車には、重大な欠点がありました。一度もユーザーへのテスト販売をしなかったのです。
エドセルは、フォード社が大々的に発表し、全国で発売されましたが、大失敗に終わりました。ほとんど売れないばかりか、フォード社に莫大な負債を残してしまったのです。
スタートアップ企業などでも、「β版」として、製品の作成前にユーザーを集める動きが活発になっています。
かつて、プロダクト・アウトかマーケット・イン、どちらが正しいのか?という論争がありました。今ではナンセンスな問いでしょう。
顧客が必要とするものを作らなければ、大失敗を指を加えて見る羽目になります。むしろ、顧客が必要とするものをどのように実現し、表現するか、ということがマーケターに求められる能力であるのです。
最終更新 19d ago