ボトムアップのチームを作る
チームの意思決定プロセスについて考えます。上手くいくマーケティングチームと、そうでないマーケティングチームの違いはどのような点にあるのでしょうか?

トップダウンからボトムアップへ

Google創業者のラリー・ペイジ、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ、Microsoft創業者のビル・ゲイツ。彼らの共通点は何でしょうか?
それは、彼らが最初の製品を作り上げたエンジニアであることです。言い換えるなら、彼らは製品についてもっともよく知っていたのです。
デジタル・マーケティングにおいて、トップダウン型の組織ほど機能不全に陥るものはありません。往々にして、数字のみを追求するようになった組織は、現場レベルでは機能しなくなるのです。
スターバックス創業者のハワード・シュルツは、店舗でチーズ入りのサンドイッチを売りはじめてコーヒーの香りが消えたとき、スターバックスは何かがおかしくなってしまったことに気付いたそうです。
当時のスターバックスは効率化と利益追求のため、サンドイッチだけではなくぬいぐるみやCDまで売りはじめ、店でコーヒーを挽かなくなっていました。そのため、見た目の数字はよくなっていましたが、実際には顧客の心が離れていったのです。
たとえば、ソーシャルメディアについて考えてみましょう。私も時々、「うちで運用しているInstagramについて改善してほしい」という依頼をいただくことがあります。
そういうとき、チームの中にいる若い女性を探してもらい、その方に、会社のアカウントの改善点を話してもらうと、驚くほど的確に改善点を挙げてくれます。
同じように、Twitterの運用や広告であれば、Twitterを普段から使う人がいいでしょう。
重要なことは、一番そのプラットフォームを理解している人に、権限委譲すること、「一番理解している人」が意思決定できる環境を作ることです。
知識のないトップが、上意下達で「これを投稿しろ」「これをやれ」というような運用では、決して上手くいきません。
現場に権限を与えるのは、簡単なことではありません。「炎上」してしまうリスクもあります。しかし、とりわけ、デジタル・マーケティングの領域では、現場こそが一番ユーザーをよく知っているのも事実です。
もっともユーザーや顧客に近い人に一番の権限を与える。これを行うことが、企業のマネジメント層に、今求められています。
現場からのフィードバックを受けて、「走りながら学ぶ」ことが重要なのです。

代理店任せからの脱却

日本においては、デジタル・マーケティング(やマーケティング)は、イコールで広告である、あるいは広告代理店が行うものであると捉えられている節があります。
しかし、広告はマーケティングにおける1つの手法に過ぎません。
マーケティングを広告中心に考えるという思考は、日本における広告代理店の立ち位置と密接に関わっています。
テレビ番組とテレビCMが絶大な影響力を誇っていた時代から、総合広告代理店はテレビCMの枠を販売する代わりに様々なマーケティングを一括で請け負いました。そのため、日本においてはマーケティング機能の多くを広告代理店が代行しており、社内にマーケティングチームが充分に整備されなかったのです。
しかし、自らインターネット広告は急速に成長し、2010年には新聞を抜くまでになりました。このような時代、広告すら、代理店任せではもはや上手くいきません。
あらゆる手法の中にインターネットが入り込む現代において、旧来からのパラダイムで成功することは難しいでしょう。
デジタル・マーケティングは自社でコントロールできるマーケティング手法である、という前提を共有しない限り、強力なチームを作ることはできないのです。
変化を捉え、機敏に反応できる組織を作ることが重要です。

センスメーキングの時代

アメリカの社会学者、カール・E・ワイクは、21世紀は「センスメーキング」の時代だと述べています。
20世紀はじめ、ハンガリー軍がアルプス山中で行軍していたときのことです。偵察隊が本体から離れた途端、雪が降りはじめました。2日間道なき道をさまよい、死を覚悟したとき、偶然にも1人の隊員が地図を発見したのです。
この地図のおかげで、なんとか3日目、生還できたのです。しかし、生還した後にその地図を見て驚愕しました。その地図はアルプスではなくピレネーの地図だったのです。
地図は結果的には間違っていたわけですが、その地図によって自信をつけることができたのが、隊員の生還につながったのです。
これをワイクは「センスメーキング」と名付け、「優れた経営者は、完全に正確な認知など必要としない」と述べています。
デジタル・マーケティングのように不確実性の高いものにおいて、事前に完全な認知を作ろうとするのは致命的な失敗要因です。

分厚い企画書は失敗の元

広告代理店に頼んで、完璧で分厚い企画書を作ってもらうことは、気持ちを安心させる効果はあるかもしれませんが、ほとんど意味がありません。
企画書が厚くなれば厚くなるほど、社内で学ぼうという気持ちは薄れ、「おまかせ」するようになります。しかし、これは無意味なだけではなく有害です。
さらに、そのような「説明コスト」が積み上がれば、実際に運用するために掛けられるリソースはどんどん減っていきます。
先ほど述べたとおり、デジタル・マーケティングは不確実性にあふれています。どれほど優秀で経験のあるマーケターでも、明確で具体的なプランニングをするのは簡単ではないのです。
むしろ、その時間をテストに使って実際の数字を確かめたほうが、より正確な数値が出るはずです。
デジタル・マーケティングに関しては、企画書の厚さと、チームとしての強さは反比例する、と言っても過言ではありません。クライアントに知識がなく、お互いに信頼関係が築けていないのであれば、そのプロモーションは失敗するでしょう。
重要なのは、代理店にお願いする場合でも、口頭ベースでお互いが意識合わせできるくらい、同じ言語を使えていることです。
「おまかせ」していては、決して最高のプロモーションは実現しません。
プロフェッショナルを使うことは重要ですが、大事なのは使う側の理解力です。

現場に権限を与える

デジタル・マーケティング、とくにソーシャルメディア・マーケティングにおいて重要なことは、「現場に権限を与える」というエンパワーメントの発想です。
東日本大震災を例に挙げます。この大規模災害では、デジタルの力を使って「現場判断」で様々なことが行われました。
NHKのツイッター担当者(@NHK_PR)は、震災当時、ある決断を下す必要がありました。Ustream(動画配信サービス)で、無許可でNHKの画面を放送していたとある中学生のツイートを、RTして拡散したのです。彼は返信に応えてこうつぶやいています。
同じように決断を迫られた人は他にもいます。Googleのクライシスレスポンスチームは、当時の状況をこのように記しています。
長谷川は混乱のまっただ中、オフィスへと戻った。この頃、すでにクライシスレスポンスチームは動き始めており、チームメンバーが興奮状態で議論を続けていたが、長谷川もそこに首を突っ込んで事態の把握に務めた。
すぐにできる、もっと大事なことがないか? そこで長谷川が思いついたのが、YouTubeを使ったテレビ番組の配信だった。
長谷川は自宅待機中に、UstreamでNHKの番組が配信されるのを見ていた。YouTubeは、すでに多くのテレビ局とコンテンツパートナー契約を結んでいるので、こうした局と交渉をすれば合法的にサービスの提供ができるのではないだろうか。
YouTubeのプロダクトマネージャーだった長谷川泰氏は、この後TBSなどテレビ局との調整、そしてアメリカ本社との調整を行いました。
彼はこのように語っています。
本来の社内プロセスがどのくらい重いかわからなかったけれど、とりあえず始めるしかないだろうと思ったんです。翌朝、もし本社がダメだって言ったら、その時点で止めればいい。とりあえず今始めようと
後に、この決断はグローバルでも賞賛されましたが、この時点では、全く先行きのわからない中での決断でした。
不確実な時代からこそ、「あえてやる」ことが重要なのです。
最終更新 3mo ago