マーケティングの歴史
マーケティングとはなにか。マーケティングはどのような歴史をたどってきたのか。この点を踏まえながら、マーケティングの現在地点を探ります。
豊かさがひとつの価値となるためには、十分な豊かさではなくてあり余る豊かさが存在しなければならず、必要と余分とのあいだの重要な差異が維持されなければならない。これがあらゆるレベルでの浪費の機能である。浪費を解消したり取り除いたりできると思うのは幻想にすぎない。 ジャン・ボードリヤール 消費社会の神話と構造

「マーケティング」の始まり

「マーケティング」という言葉の起源は定かではありませんが、近代マーケティングの起源となったのは、1920年代におけるアメリカ自動車メーカーのゼネラルモーターズだと言われます。
そもそも、アメリカの自動車産業は、ヘンリー・フォード率いるフォード・モーターズにより成長しました。フォードが開発した「T型フォード」は革命的製品であり、歴史上初めて普通の収入を持つ人でも購入できる自動車を開発しました。
T型フォードは、1908年に発売され、1500万台以上を売り上げました。そもそも国外へのサプライチェーンがない時代の数字としては驚異的です。 一つのモデルとしてT型を超えるのは唯一、戦後世界中で販売されたフォルクスワーゲン・ビートル(2100万台を販売)のみです。
T型はベルトコンベアによる大量生産モデルを確立し、飛躍的に安いコストで販売できる唯一の車でした。
T型は完璧な商品だとヘンリー・フォードは確信していました。素朴な製造家だった彼は、徹底して「より安く・より多くの」T型を製造することに固執しました。道には真っ黒なT型フォードが溢れており、色も一色、モデルも一つであるため、壊れない限り人々は買い換えようとしませんでした。
息子であるエドセル・フォードはこの問題に気づいており、高級車メーカーのリンカーンを買収し、今も続く高級車ブランドのリンカーン・コンチネンタルを生み出しましたが、ヘンリー・フォードは見向きもしませんでした。
これに目をつけたのが、様々な自動車メーカーの統合により誕生したゼネラル・モーターズ(GM)です。天才経営者アルフレッド・スローンに率いられたGMは、世界で初めて近代的なマーケティングを実施しました。
GMとともに
Amazon.co.jp
ビュイック・シボレー・キャデラックなど、大衆車から高級車までを揃え、更にカラーリングを多彩にし、毎年のようにモデルチェンジを繰り返す、という戦略を取りました。つまり、多様な顧客に向けて多様な商品を用意し、更に買い替えを促進するという、近代的なマーケティングを行ったのです。
GMはフォードを追い抜き、世界一の自動車メーカーとしての地位を確立します。

独占市場と複数市場

ヘンリー・フォードとアルフレッド・スローンは、両方とも歴史に残る経営者でしたが、フォードが「移動する手段」として自動車を捉えていたのに対し、スローンは「ライフスタイル」として自動車を捉えなおしました。
結果を見れば明らかでしょう。人々は単に移動する手段を求めている、というだけではなかったのです。
自動車が発明された当初、馬のように管理が難しくなく、いつでも長距離を移動できる自動車はイノベーションでした。
しかし、どんなイノベーションも普及してしまえば、その先にあるのは、独占か多様化のどちらかしかありません。そして、マーケティングは多様化した市場(マーケット)がなければ成立しないのです。
山手線の新宿駅がどんなにわかりづらくて古くても、皆さんは駅を選ぶことは出来ません。新宿区役所の担当者がどれほど愛想が悪くても、区役所を選ぶことは出来ません(引っ越さない限り)。
一つしか商品がない市場において顧客は選択ができないため、そもそもサービス提供者はマーケティングを行う必要はないのです。
マーケティングは複数の商品があることで成立する。この前提は重要です。

マーケティングとは「余剰」である

マーケティングは多様な商品がある市場、すなわち高度消費社会がなければ存在しえません。言い換えれば、マーケティングは「余剰」や「浪費」を前提としているのです。
アメリカの社会学者ヴェブレンは、「有閑階級の論理」において、「顕示的消費」という概念を提示し、実用性を離れれば離れるほど価格は上がっていく、という理論を提示しました。
より実践的な言い方をするならば、マーケティングは必ず「競合」を必要とする、と言ってもいいかもしれません。
最もマーケティングが発達した分野であるアパレル・ファッションのように、毎年のように「流行」が代わるということもその証拠の一つです。「機能的価値」は変化しませんが、「消費としての価値」「ブランド価値」は毎年変化します。
かつて高級車の代名詞はロールスロイスでしたが、今や環境に優しいテスラなどのEV車が取って代わりました。
最終更新 1mo ago