Memory(顧客の記憶に残す)
注意を引いたとしても、顧客の記憶に残さなくては意味がありません。現代では、あまりに多くのことが私たちの注意を引きます。いったい、どのようにすれば、私たちの名前を覚えてもらえるのでしょうか?

記憶に残ると何が起こるのか?

「詳しくは、ネットで検索!」こんなCMをご覧になったことがあるはずです。Web検索に誘導するタイプのCMは、2005年くらいから見られるようになりました。
このような誘導型のCMは、誘導しないCMに比べ、Web検索の上昇率が2.4倍にのぼるという調査もあります。
デジタル・マーケティングの世界では、自社の商品名や会社名で検索された検索キーワードを「ブランドキーワード」と呼びます。
このブランドキーワードの検索回数は、非常に重要なデジタル・マーケティングの指標の1つです。
例えば、「コカ・コーラ(青)」と「ペプシコーラ(赤)」の検索回数の比較(2018年3月時点)を見てみましょう。
2004年以降、常にコカ・コーラはペプシコーラを上回っていることがわかります。ブランドキーワードで検索したユーザーは、当然のことながらロイヤリティも高く、他の商品を買うよりも自社の商品を買う可能性が高いでしょう。
顧客が社名や商品名を記憶していると、再訪率も大きく変わります。「あの商品、買いたかったけどなんて名前だっけ」なんて経験もあるのではないでしょうか。
名前を覚えてもらうことの重要性を示す調査を、もう1つ紹介しましょう。選挙のたびに「選挙カー」が、名前を連呼しています。
短い時間では政策を伝えることは全くできません。本当に効果があると思いますか? 実は、あるのです。
関西学院大学の三浦教授によると、選挙カーが近くを通った人は、その候補者に投票する傾向が高かったという結果が出ました。ただし、好感度は上がっていなかったということです。
テレビCMでも、商品名を連呼するものは少なくありませんが、一定の効果がある、ということの傍証になるのではないでしょうか。

忘れられないためには「物語」を語るべき

スタンフォード大学でアイデアを研究しているチップ・ハースとダン・ハースは、自分たちの講義の中で起こったこんなエピソードを紹介しています。
彼らの講義で、まず学生に対してプレゼンテーションをさせます。そして、その学生のプレゼンテーションを、印象的な話し方だったか、説得力があったのか、などを他の学生が採点します。
当然、採点すると高得点になるのは、話術に長けた学生です。しかし、発表が終わって10分ほどして、もう一度発表者のアイデアを思い出すように求められると、どのアイデアも全く記憶に残っていなかったのです。
1分間のスピーチを8回聞いただけなのに、そのうち覚えているのは平均で1つか2つという惨憺たる結果になりました。
では、覚えているプレゼンテーションにはどんな特徴があったのでしょうか? 実は、プレゼンテーション中の説得力や話術とは全く相関がありませんでした。
鍵は、「物語」にありました。発表の中で語られた「物語」は、63%の人が覚えていたのに対し、統計を思い出した学生は5%に過ぎなかったのです。
アイデアを覚えさせることに成功したのは、物語を使って感情を刺激した学生だったのです。
このエピソードからは重要なことが学べます。どんな製品であれ、物語を語ることで、統計的な不利を乗り越えることができるかもしれないのです。

ブランド構築は容易ではない

ハーバード大のジャーナリズム機関であるNieman Labの調査によると、興味深いデータがあります。検索から記事にアクセスしたユーザーの37%、ソーシャルメディアを使って記事を見つけたユーザーの47%だけが、記事がどの媒体で発行されたのか覚えていたそうです(比較すると、直接アクセスしたユーザーの81%は、後でそのストーリーがどこに公開されたかを思い出しています)。
記事を読んだユーザーですら、その媒体名を覚えていないとすると、広告を1回見たユーザーが、どれほど商品名を覚えているでしょうか?
情報量が多すぎる現代において、製品名やメディアの名前を覚えさせることは簡単ではありません。だからこそ、キーメッセージと物語を使うことが重要です。

フリークエンシー(接触頻度)

人間の認知力には限界があります。だからこそ、何度も何度も、しつこく(なりすぎない程度に)、宣伝する必要があります。
視聴率調査などを行うビデオリサーチ社などの2011年の調査によると、インターネット広告のフリークエンシー(接触回数)が1回の状態では、広告の認知度は32.3%に過ぎません。10回以上接触した広告では、この値は39.3%まで上昇します。
ただし、フリークエンシーが多すぎることによって既存ユーザーに不快感を与える可能性もあります。この点は、一定程度の注意が必要です。

「認知」は必要か?

少し余談ですが、テレビCMや新聞広告など、新商品が出る際には大々的なプロモーションがあり、それによって認知を獲得するという考え方が一般的でした。
しかし、デジタルの世界では、気に入ればその場でクリックして行動が起きますし、そうでなければただ忘れてしまうだけです。覚えてもらって、そこからもう一度……というのは、ちょっと悠長すぎる話かもしれません。
認知というのはもちろん重要な概念ですが、あまりプロモーション費用のないほとんどの中小企業にとって、有効活用できる概念かというと疑問です。むしろ、認知という概念があることで、広告費の無駄を見過ごしてしまう可能性もあるからです。
最終更新 19d ago