マーケティングKPIの作り方
データ分析において、もっとも重要なことは「どのような結果が出るか」ではありません。「何を分析すべきなのか?」ということです。ここでは、いかにして正しいデータを分析するか?について考えていきます。
映画「マネーボール」に、こういう言葉があります。
ブラッド・ピット主演×『ソーシャル・ネットワーク』のタッグで贈る。メジャーリーグの常識を覆した、これは、真実の物語。選手からフロントに転身し、若くしてメジャーリーグ球団アスレチックスのゼネラルマネージャーとなったビリー・ビーンは、自分のチームの試合も観なければ、腹が立てば人やモノに当たり散らす短気で風変わりな男。ある時、ビリーは、イエール大学経済学部卒のピーターと出会い、彼が主張するデータ重視の運営論に、貧乏球団が勝つための突破口を見出し、周囲の反対を押し切って、後に“マネーボール理論”と呼ばれる戦略を実践していく。当初は理論が活きずに周囲から馬鹿にされるが、ビリーの熱い信念と、挑戦することへの勇気が、誰も予想することの出来なかった奇跡を起こす!!
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あなたのゴールは、勝利を買うことであるべきです。選手を買うことであってはいけません
示唆に富んだ言葉です。この言葉どおり、私たちが得るべきなのは利益であって、ユーザーではありません。
アスレチックスとビリー・ビーンの統計スタッフの功績は、打率や打点、盗塁数、あるいは勝利数などの、昔から野球において「正しい」と信じられていた指標を疑い、「本当に勝利に結びつく指標は何なのか?」という問いを立てたことにあります。
彼らが着目したのは、出塁率でした。足が遅くても、打率がそれほど高くなくても、出塁率が高い打者が揃っているチームは、統計的に勝利に結びつきやすいことがわかったからです。
ビリーの率いるチームが少ない予算で劇的な勝利を勝ち取り続けると、次第に新しい統計手法が採用されるようになり、現代のメジャーリーグでは、打率や打点ではなく、より複雑な、統計的に有意に勝利に結びつく指標が採用されるようになっています。
より多くヒットを打った。より多く点を稼いだ。ホームランを打った。これらは、いかにもわかりやすい指標です。直感的には、私たちは何が勝利に結びつくかを充分に理解しているように思えます。しかし、直感的に正しいことが統計的に正しいとは限りません。

分析に必要な指標は何か

以下のような例があるとしましょう。
3つの媒体に広告を出稿しました。アクセスした人数だけを見れば、媒体Aが圧倒的に見えるでしょう。しかし、購入している人数で見ると、他の媒体のほうが圧倒的に効率がいいことがわかります。
一見、多くの人がアクセスしていれば、当然購入金額も増えるに違いない、と思ってしまいます。しかし、実際は、その指標はあくまで1つのチェックポイントであり、本当に重要なのは購入者であることがわかります。
単純なアクセス数で広告の成果を測ってしまえば、この広告は大失敗するでしょう。どのポイントにKPIを置くか、ということこそ、分析においてもっとも重要なポイントと言えます。
KPI ( Key Performance indicator )
目標達成のために鍵となる数値・数値目標のことを指します。「2017年のKPIは1人あたりの顧客単価だ」などと用います。KPIが複数あるケースも多いです。
最終的に購入するかどうかをKPIに置いた場合、それ以外の数値は従であり、あくまで目標達成のために通る1つの要素に過ぎません。

より深い指標で計測する(LTV/ROI)

さらに考えれば、購入だけでは不充分なこともわかります。広告の効果は決して一度だけで終わるものではありません。
踏み込んで考えてみましょう。たとえば、飲食店が30万円でインターネット上に広告を出稿したとします。
この広告を見て、50人が来店したとします。これが、獲得顧客数です。1人あたりの顧客単価が5,000円だとします。掛け合わせると25万円。これが売上になります。
30万円投入して25万円のリターンでは、広告効果が見合っていないように見えます。しかしながら、本来マーケティングは、一度だけで完結するものではありません。一度来た顧客が再度来店したり、ファンになってくれる可能性も充分あるでしょう。
仮に、その顧客が生涯に平均で1.5回来店するとすれば、未来にわたっての売上は、1人あたり「5,000円×1.5」で7,500円となります。
これを、LTV(ライフタイムバリュー)と呼びます。
LTV(ライフタイムバリュー) 顧客生涯価値。1人の顧客が、そのサービスに対して生涯に与えうる価値。生涯全てを計測することは難しいため、5年LTV / 10年LTVなどと時期を区切るケースが多いです。
顧客数と掛け合わせると、37万5,000円。これが広告によって獲得した、総合のリターン、価値になります(図8-3)。
図8-3 LTVを計測する 作図してください
それでは、再度広告の効果を計算してみましょう。
総合のリターンが37万5,000円、投入したのが30万円ですから、ROI(費用対効果)は125%となります。この広告自体は、投資した予算よりも獲得した価値が大きいということになります。
このように、適切に顧客のLTVを計測することができれば、広告が実際の収益にどの程度のインパクトを与えるかを正確に測ることができます。

フリークエンシー(購入頻度)で考える

もう1つ、分析で重要な概念は購入頻度です。先の例では来店回数という平均の数値を出しましたが、可能であれば、図8-4、図8-5のように購入回数ごとの転換率を確認することで、どこにボトルネックがあるのかを確認することをおすすめします。なお、F1とは1回目の購入、F2は2回目の購入を指します。

顧客の購入頻度

F1
F2
F3
F4
F5
顧客A
顧客B
顧客C
顧客D
顧客E

転換率

F2
F3
F4
F5
転換率
40%
100%
50%
100%
とりわけ、重要だと言われるのがF2(購入2回目の)転換率です。一般的に、2回目に購入した顧客は、それ以降も購入する可能性が高いと言われています。
1人あたりの購入回数が増えていけば、顧客のLTVは劇的に増加するので、F2転換率はLTV増加のためには非常に重要な指標となります。

どの指標にポテンシャルがあるかを考える

先ほどの例で言うなら、獲得価値には3つの指標があります。獲得顧客数と、1人あたりの顧客単価、来店回数。それぞれは基本的には独立した指標と呼べるでしょう。
では、いったいどれがもっとも上げやすいでしょうか? 獲得顧客数を上げるには、広告の予算を上げたり、獲得コストを下げて費用の中で効果を上げるという方法があります。
顧客単価を上げるには、広告のターゲティングをより正確にするという方法もありますし、メニューの見直しやセットメニューの導入なども必要かもしれません。来店回数を増やすには、メールマガジンやSNSなどで顧客とのつながりを築くことも必要かもしれません。
重要なのは、競合と比較したとき、あるいはビジネスモデルを検討したとき、どの指標にポテンシャルがあるか?(競合と比べて低く、まだ上げられるのか?)を分解して考えることです。

基準値を作る

広告分析を行う場合、基準値が必要です。たとえば、CPA(コンバージョン単価)について考えてみてください。単価が1万円の商品なら、CPAが2,000円でも利益が出るかもしれませんが、1,000円の商品ならもっと下げなくてはいけません。
どのような数値であれ、基準値が必要なのです。クリック率やコンバージョン率も、事前に競合調査などを使って一定の基準値を作りましょう。

数値を細かくする(チャンクダウン)

ある広告キャンペーンのCPA(コンバージョン単価)が1,000円から1,500円に悪化した場合を考えてみましょう。原因を特定するには、まず指標を分解してみます(図8-6)。
費用は変わっていません。コンバージョンは減っています。
原因の1つは、クリック数が減ったことにあるようです。さらに深く確認すると、費用が変わっていないにもかかわらず1クリックあたりの単価(CPC)が上昇しています。
もう1つの原因は、1クリックあたりのコンバージョン率が減少していることです。
さらに深掘りし、リスティング広告であればキーワードごとや検索クエリごと、ディスプレイ広告であれば配信面ごとに分解して考えることもできます。
問題を細かく分解していくことで、原因を特定することが可能になります。

CPAは下がれば下がるほどよい?

「獲得コストは下がれば下がるほどよい」という、よくある誤解があります。広告であれば、CPA(コンバージョン単価)やCPI(インストール単価)です。
これは、もちろんある意味では正しい解釈です。獲得コストが下がれば利益が上がるという事実から導き出されているのでしょう。しかし、よく考えてみると、コストを下げることが、必ずしもマーケティングの判断として正しいとは限りません。
たとえば、以下のような例を考えてみましょう。広告Aは、1人の顧客を獲得するのに4,000円のコストをかけています。広告Bはその半分の2,000円です。
顧客単価はどちらも変わりません。となると、1人あたりの利益は、広告Aでは1,000円、広告Bでは3,000円。なんと3倍もの差があります。
しかし、実は広告Aは、広告Bの5倍もの顧客を集めていました。その結果、総合の利益額は、広告Aの5万円に対して広告Bが3万円と、2万円も広告Aのほうが高くなりました(図8-7)。
必要なことは、獲得コストを下げることばかりではありません。大枠で見たときの利益が増えるためには、多少の獲得コストを許容することが大事なのです。
もちろん、コストを下げることで同じ予算の中でより多くの広告を出せるという面もあるのですが、獲得コストを下げれば下げるほど、出稿できる「面」が細ってしまうケースが多いのです。
これは、「広告を使うべきか」という問題にも関わってきています。広告だけがデジタル・マーケティングではない、ということは再三お伝えしてきたとおりですが、かといって無料のツールだけを使えばよいというわけではありません。総合的に見て利益の上昇に寄与するのであれば、躊躇せずに予算を投下することも必要なのです。
最終更新 3mo ago